土鍋ごはんの美味しさに激ハマりしている。
そりゃあ元々、土鍋で炊いたご飯が美味しいということは、なんとなく知識として知ってはいた。時たま出かけた先の居酒屋メシなんかで「土鍋ごはん」のメニューがあれば頼んでいた記憶もある。
でも、自宅では特にこだわりもない炊飯器で適当にお米を炊いていたし、ましてや米の種類や産地にこだわることなど一度もなかったのだ。
そんな私の生活の一部として、土鍋が侵食してきたのは、去年の暮れ頃のこと。
夫と付き合いたてで、しかもクリスマスが近いということもあり、「何か欲しいものはある?」と尋ねられた。正直そこまで欲しいものが思いつかず、ほとんど開いていなかったスマホの古いメモに書かれた「欲しいものリスト」を掘り起こしてみる。
そこに書かれていたひとつが、土鍋だった。
先に述べた通り、ほとんど開いていないリストなので、正直そこまで欲しいわけではないけれど、くれるなら欲しいものや、高すぎて気軽には買えないけれど、まとまったお金が準備出来たらいつかは買いたいものなどがこのリストには羅列されている。
私にとっての土鍋は、この前者だった。
そこまでめちゃくちゃ欲しいわけではないけれど、「何か欲しいか?」と聞かれたら答えたいもの。それに、ピンキリかもしれないけれど、そんな何万円もするような高級な土鍋が欲しいわけでもないので、人にねだるプレゼントとしてちょうど良い価格帯な気もして、彼に伝えた。
すると、「東京で一番調理器具が集まる場所はここだ!」ということで、次のデートで浅草にある合羽橋道具街に連れて行ってくれたのだ。

合羽橋道具街とは、主に食器やキッチン用品、食品サンプルなどのお店がずらりと並ぶ、お料理好き、食器好きの人にはたまらない商店街。
浅草は私の自宅からだとドアtoドアで1時間以上かかるので、普段から在宅ワークでお家大好き人間の私にとっては、なかなか足が向かない場所。
それに、ど真ん中の観光地且つ、彼の休みに合わせて土日に出向くことになるので、人混みは避けられまい。誘ってくれたのはありがたかったけれど、正直あまり気乗りではなかった。
実際に、通りはインバウンド客でごった返していた。
でも、数日前に偶然、田舎に住んでいる母から「東京の河童橋道具街ってところに行ってみたい!」というLINEが届いていたので、それじゃあ下見も兼ねて行ってみるかという気持ちも少しあったのと、浅草は夫のホームということもあり、案内したくてたまらなそうなワクワク感がひしひしと伝わっていたので、行くことにした。
私たちがたどった道順の問題かもしれないが、「ここから合羽橋道具街!」という目立った看板があるわけではなく、歩いているとなんとなーく、ぬるっと食器屋さんが増えてきたなぁ…というタイミングがあり、その突き当りを曲がると「あ、絶対にここだ!」と確信を持てる道具街が現れた。
道端に面して大量の器や調理器具が雑多に並べられ、価格シールが貼られているお店も多く、まるで食器の生鮮市場のよう。
ひと通り見て回って、それはそれは普通に楽しくて、同じ都内在住とはいえ、かなり観光客っぷりを発揮していたと思う。特に食品サンプルのお店では、外国人の女の子が写真を撮る列を待ち、同じようにキャッキャとフルーツパフェやすき焼き肉のサンプルを写真に撮った。
でも、欲しいと思える土鍋があったのは、まだここは道具街ではないのでは?というギリギリのラインにひっそりとあったお店。しかも、道具街の雑多な雰囲気とは打って変わって、イマドキでお洒落な、北欧雑貨店のような洗練された空間。
(ここで買うなら、浅草まで来る意味ってあんまりなかったんじゃ…。たぶん、似たようなお店が渋谷や表参道あたりにもありそうだな…。)などという気持ちに一瞬なったが、今日こうしてここに来なければ出会えなかったのだし!と、思い直す。
そして、目星をつけた土鍋があったのだけれど、結局その日は購入しなかった。
今思えば、この時に買っておけばよかったのだけれど、なんとな~く夫が「じゃあこれがプレゼントだね!(買ってあげるね)」という雰囲気のことを言っていた気がしたので、「あ、これをくれるのかな?じゃあ今買わない方がいいやつか。」と、変に察した結果、それが空振りに終わったのだ。
てっきり土鍋がもらえるものだと思っていたクリスマス。夫からのプレゼントは、写真立て。そのすぐ後にやってきた私の誕生日プレゼントは、アップルウォッチ。
土鍋の話は一体何処へ…と思って聞いてみたら、「最終的にどのデザインが良いのか分からなかったから、買えなかった。」とのこと。

私としては、プレゼントの土鍋を選ぶために合羽橋道具街へ見に行ったつもりでいたので、悩んでいたとはいえ、あのお店で見ていた土鍋をくれるものだと思い込んでいた。それに、「分からないなら、聞いて!!!」とも思った。
でも、土鍋以外にもプレゼント関連でこの後同じような出来事があったので、必要以上に「なぜ?どうして?」をぶつけるのではなく、もう、彼はそういう人間なのだと理解することにした。自分から具体的に「いつ、コレ(物)のコレ(種類)が欲しい!」という指示を出すことが最適解なのだ。
こうしたカップルのすれ違いによる揉め事が起こり得る場面で、怒りや悲しみを感情的に伝えるよりも、淡々と感情を処理できるようになった自分に対して、大人になったなぁと小さく感動したり、でもそれは、彼の人柄によるものなのかもしれないと思ったり。
そんなエピソードがありつつ、今愛用している土鍋は、実は彼に買ってもらったものでも、その後自分で買ったものでもない。
というか、そもそも土鍋の定義って何?と考えた時に、はっきり理解できていない自分がいた。
「鍋」ではなく「土鍋」という表記により、なんとなくより凄そうな、特別感のあるものだと思っていたけれど、私が既に持っている鍋も、たぶん素材は土じゃね?と思い、シンク下に眠っていた一人用の小さな鍋を取り出した。
既に箱は捨ててしまっているので、詳しい素材は分からないけれど、見るからに、自分が欲していた土鍋と同じではないか。
「なーんだ!土鍋、持ってるじゃん!」と、忘れていたへそくりが出てきたような嬉しい気分になり、早速その日に土鍋(仮)でご飯を炊いてみることにした。

だが、その時自宅にあったのは玄米のみ。玄米は普通に炊くのにも事前に浸水させたり、炊きあがりまでの時間調整も炊飯器ごとに必要だったりと、ちょっとややこしい。初めての土鍋デビューには適していないと思い、すぐさまスーパーへ白米を買いに行った。
近くのスーパーは小さいながらに十分な米の品揃えで、地域柄単身世帯が多いからなのか、2合分からの小さなお米パックの種類も豊富で嬉しい。中でも一番気になった魚沼産コシヒカリを購入。お米の帝王はコシヒカリ、その中でもカースト上位が魚沼産みたいな個人的なイメージがあったから。
普段から説明書を読むことが苦手なめんどくさがり屋なので、料理も作ったことがあるものは大体の感覚で大雑把にやってしまうのだけれど、さすがに割高の魚沼産コシヒカリを無駄にしたくはないという思いで、チャッピー(chatGPT)に土鍋ごはんの美味しい炊き方を聞いてチャレンジ。
若干鍋底部分が焦げてしまったけれど、いわゆるおこげごはんとしてギリギリ呼べるくらいだったので、まあ許容範囲とした。
そして、肝心の味なのだが…
美味い!!!美味すぎる!!!

元々私は堅めのお米が好きで、且つ、今回入れた水の量が少し少な目だったのかもしれないけれど、かなり理想通りの粒立ちと食感、そして焦げの香ばしさ、米の甘み、すべてが感動レベル。夫共々一口食べるごとに「うま…!!!」という声が漏れ出てしまうほどだった。
それからというもの、すっかり土鍋で炊くごはんにハマってしまっている。
これまではお米なんてなくても全然平気だったのに、今では米単体でも食べたいくらいに大好きだ。先日、健康診断で朝から夕方まで何も食べられなかった日には、帰り道に頭の中でずっと炊き立てのご飯をぎゅっと飲み込む「米ののどごし」を想像しながら帰ったほどに。
そして、あまりの美味しさに一瞬で炊いた米がなくなってしまうので、2合分のご飯しか炊けない一人用の土鍋にそろそろ別れを告げ、新しく大きな土鍋を迎えようかと考えている。
ただただ、「土鍋っていいな」という思いつきで、開きもしないメモ帳にその名をしたためていた頃が確かにあった。
でも、いざ蓋を開けてみれば、土鍋を通して夫とのひと悶着があったり、お米の美味しさにこの歳になって改めて感動できたりと、こうでもしなければ知れなかったかもしれない沢山の経験が詰まっていたのだ。
行き詰まった時には、こうして眠っている過去の蓋を開けてみることは、意外と新しい発見や感動につながるのかもしれないという気付きでもある。
次に購入する新しい土鍋こそ、形も色もしっかり指定して、夫に買ってもらうか?
そうすればきっと、また一味違った「うま…!!!」が出そうな気がする。
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